寄与分を考える5つのポイント

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相続人の中に、被相続人の財産の増加・維持に特別の寄与、貢献をした者がいる場合、他の相続人と同等に遺産分割すると、相続人間で不公平が生じます。
例えば、相続人の中に、被相続人と共同して家業に従事していた人、又は被相続人の療養看護を行っていた人がいる場合などが挙げられます。

このような相続人に対して、寄与、貢献に相当する額を加えた財産の取得を認める制度を「寄与分」といいます。

今回は、「寄与分」について詳しく見ていきましょう。

※平成30年の民法改正には、相続人以外の者の貢献に対して、特別の寄与を認める制度が創設されました。・・・2019年7月12日までに施行

☆☆参考☆☆寄与分と遺言、の考え方や計算方法に関する記事はこちら
寄与分と遺言・特別受益・遺留分に関する3つのポイント

1.寄与分とは
2.さまざまな寄与分のかたち
3.「特別の寄与」といえるためには?
4.寄与分を定める手続き
5.類型別の寄与分算定事例

1.寄与分とは

寄与分とは、相続人の中に、被相続人の財産の増加や維持に特別の寄与、貢献をした者がいる場合に、寄与に相当する額を加えた財産の取得を認める制度です。
寄与分は、相続人間の公平を図るため、昭和55年の民法の改正により創設されました。

寄与分が認められる者

寄与分の主張が認められるのは、「法定相続人」(※)に限られます。したがって、内縁の妻や養子縁組をしていない事実上の養子、相続放棄した人、相続欠格・相続廃除された人は、寄与分を主張することはできません。
寄与分として認められるには、寄与行為の存在によって、被相続人の財産の維持または増加があること、寄与行為が「特別の寄与」といえることが必要です。

※法定相続人とは?

法定相続人

※平成30年の民法改正で相続人以外の寄与を認める、「特別寄与」制度が創設されました。・・・2019年7月12日までに施行

相続人外の者の貢献

被相続人の相続人でない親族(特別寄与者)が、無償で療養看護などの労務提供をして被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合、相続の開始後、相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求できることとされた。

相続人でない親族の範囲

6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族をいう。したがって、子の配偶者(1親等の姻族)、先順位の相続人がいる場合の兄弟姉妹(2親等の血族)、被相続人の配偶者の連れ子(1親等の姻族)などは、この制度の対象となる。(この制度は法律婚を前提としていることから、被相続人の内縁の配偶者やその連れ子は対象とならない。)

労務提供のみが貢献の対象

貢献の内容は「無償での労務提供」に限定されており、寄与分制度で認められる「被相続人の事業に関する財産上の給付」は対象にならない。

特別寄与料給付の概要

・相続人が複数いる場合は各相続分で負担する。
・協議が成立しない場合、家庭裁判所の審判(期間制限あり)で決定。
・特別寄与料の上限額は、「相続開始時の相続財産の価額-遺贈の価額」まで。
・請求期限は、相続の開始及び相続人を知った日から6ヶ月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したとき。

2.さまざまな寄与分のかたち

民法では、寄与の態様として、被相続人の事業に関する労務の提供、被相続人の事業に関する財産上の給付、被相続人の療養看護、その他の方法を挙げていて、次のように分類することができます。

寄与分 類型

それぞれの類型の具体例を詳しく見てみましょう。

①家業従事型

家業従事型の具体例として、被相続人が営んでいた農業や自営業を手伝ってきた場合などが挙げられます。
事業の典型例は、農業や商工業が挙げられますが、医師、弁護士、司法書士、公認会計士、税理士などの業務を含むとされています。

②金銭等出資型

金銭等出資型の具体例として、共稼ぎの夫婦の一方である夫が夫名義で不動産を取得するときに、妻が自己の得た収入を提供する場合や、相続人が被相続人に対し、被相続人の家屋の新築、新規事業の開始、借金返済などのため、金銭を贈与する場合などが挙げられます。

③療養看護型

療養看護型の具体例として、相続人が被相続人の療養看護を行い、付き添い看護の費用の支出を免れさせた場合などが挙げられます。

④扶養型

扶養型の具体例として、相続人が被相続人を継続的に扶養して、その生活費を賄っていた場合などが挙げられます。
ただ、夫婦は互いに協力扶助の義務を負っていて、また直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養する義務を負っているため、扶養行為が認められる場合でも、それを超えた特別の寄与にあたるかどうかの判断が必要になります。

⑤財産管理型

財産管理型の具体例として、相続人が被相続人の所有するアパートの管理を行ない、管理費用の支出を免れさせた場合などが挙げられます。
不動産の賃貸・管理・修繕、保険料や公租公課の支払い等の行為が考えられます。

いずれも寄与分として認められるには、「特別の寄与」でなくてはなりません。
「特別の寄与」とは、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度を超えた貢献をいいます。

3.「特別の寄与」といえるためには?

寄与分として認められるには、寄与行為の存在によって、被相続人の財産の維持または増加があること、寄与行為が「特別の寄与」といえることが必要です。
類型によって異なりますが、「特別の寄与」といえるためには次の4つのことが問われます。

無償性

特別の寄与といえるためには、寄与行為は原則として無償でなければならないとされています。 したがって、生活費、給与、報酬等の給付を受けている場合には、無償性がないものとされます。
しかし、無償で労務を提供して一切給付がされていないといった事例は稀で、何らかの対価的な給付がなされているのが通常です。
この場合、被相続人が、第三者を従業員として雇った場合と比べて差があるかという観点から判断します。差がない場合には、無償性がないものとされます。
一方、差がある場合には、その差をもって、寄与分算定の基準とすることになると考えられています。

継続性

寄与行為が特別の寄与といえるためには、相当長期間にわたって継続してなされることが必要とされています。
どのくらいの期間かということに関しては、個別の事案ごとの判断となります。

専従性

相続人による家業についての貢献の場合、特別の寄与といえるためには、寄与行為が臨時や片手間になされるのでは足りず、本来自分が従事すべき仕事と同様に携わることが必要とされています。
ただし、「専従」=「専業」という意味ではなく、他の業務を行っていたとしても、専従性の要件を満たすことはあります。

被相続人との身分関係

特別の寄与とは、先述のとおり、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度を超えた貢献をいいます。
したがって、その程度は、被相続人との具体的身分関係によって差異が生ずるものであり、配偶者、子、兄弟姉妹、親族のいずれであるか等によって、同様の寄与行為がある場合でも寄与分の認定上、差が出ることになります。
通常期待される貢献の程度については、一般に配偶者、親子、兄弟姉妹、親族の順序で小さくなり、通常の貢献の程度を超えた場合に初めて特別の寄与として認められることになります。

「特別の寄与」といえるために問われること(類型別)

「特別の寄与」といえるために必要なことを、類型別にまとめています。

寄与分 特別の寄与

4.寄与分を定める手続

寄与分を定めるには、まず相続人全員の協議で定めます。
協議で定められない場合、家庭裁判所の調停または審判で定められます。
寄与分は、遺産分割の際にみなし相続財産の範囲を決め、具体的相続分を算出するために必要であるため、遺産分割の調停・審判とともに行われます。
家庭裁判所が寄与分を決める場合は、寄与の時期、方法、程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮し、家庭裁判所の具体的な裁量により定められます。
ただし、家庭裁判所へ申し立てた場合、寄与分を認めてもらえることはなかなかありません。寄与分を認めてもらうには、寄与といえるための資料などをあらかじめ準備しておく必要があります。

寄与分 定め方

5.類型別の寄与分算定事例

具体的な寄与分の算定について、民法には寄与の時期、方法、程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮するという抽象的な規定があるにとどまり、その実際の適用は、家庭裁判所の合理的な裁量に委ねられています。
寄与分の具体的算定にあたっては、相続財産の維持又は増加についてなされた相続人の寄与の程度を客観的に認定しただけでは足りず、これに加えて相続財産の額等一切の事情を考慮し、裁量的にその額あるいは割合を定めることになります。
以下、算定事例は、あくまで一つの目安であり、絶対的基準ではありません。

寄与分 算定事例

まとめ

寄与分において、特に押さえておきたいポイントは、次の3点です。

  • 寄与分として認められるには、寄与行為の存在によって、被相続人の財産の維持または増加があること、寄与行為が「特別の寄与」といえることが必要。
  • 「特別の寄与」といえるためには、無償性、継続性、専従性、被相続人との身分関係などが問われる。
  • 寄与分を家庭裁判所の調停または審判で定める場合、寄与といえるための資料などがなければ、寄与分として認められることは難しい。

寄与分は難しい制度ですが、相続において知っておきたい制度の一つです。特に押さえておきたいポイントをもとに、学びましょう。

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